会話に意味を持たせるな


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最近仲良くなった女の子が熱心に読書していてすごいなと思う。すごいね、と言うと「無理やり時間を作ってなんとか読んでるんです」と。そんなひたむきさもすごいと思う。

 

たまに読書しようとすると、既に読んだことのあるお気に入りの本ばかり繰り返し読むから新しい作品をまったく読めない。雪風が飛び立つシーンにもう一度震えたくて、とか金網越しに舌を舐める錆混じりのキスシーンを、とかそんな調子だ。今読み返しているのは村上龍映画小説集。

 

村上龍映画小説集 (講談社文庫)

村上龍映画小説集 (講談社文庫)

 

 

地獄に堕ちた勇者ども」で市川明美と「私」が寝台列車に乗り合わせるシーンが好き、この話は20ページにも満たない短編なのだけどとてもお気に入りで何回も繰り返し読んでいる。

 

私達はかなり遅くまで、今考えると本当にバカバカしい話題で喋べった。明け方と夕暮れはどっちがきれいだと思うか、紅茶にミルクを入れる人とレモンを入れる人ではどちらがロマンチストだろうか、ポール・サイモンボブ・ディランとドノヴァンの中で一番歌が下手なのは誰だろうか、パリとロンドンとニューヨークと一ヵ所だけ行けるとしたらどこに行くか、ディズニーランドの四つの国の中で一番好きなのはどこか、ほとんど私が話して、彼女は興味深そうに聞いていた。

 

 意味はなくてディティールだけがある、硬質だけどそんなロマンチックな会話に惹かれる。会話に意味なんてあってたまるかとさえ思わせる。

 

明日になれば溶けてしまいそうな事柄と、忘れられない景色があればそれでいい。夜の海の黒い色、ふすまに映ったプロジェクターの光、クラブのトイレのタイル、そうしたものたち。